それからアイは、いつも付けっぱなしだったピアスを、
出掛ける時以外はなくさないようにと、外して
小さなグラスにしまうようになった。

7月だというのにまだ涼しい日々が続いたある金曜日、
いつものようにアイが深夜に帰ってくると、
なにやらごそごそと探し物を始めた。
ボクは物音に気づき、どうしたのか尋ねると、
アイが泣き出し、
ボクが誕生日にプレゼントしたピアスをなくしてしまったと言う。
ボクは正直ショックだったが、それほど高価なモノではないし、
「小さなものだから仕方ないよ、また代わりのモノを買ってあげるから」
と言ってアイの頭を撫でた。
ごめんね、と何度も言いながら、アイはボクの腕の中で泣きながら眠ってしまった。
ボクもアイを抱きしめながら、眠りについていた。


翌日、ボクは休みなので、
アイが腫れた目を気にしながら仕事へ行くのを見送り、
ボクは溜まった洗濯物を背負って家に帰った。

父の姿はなく、リビングには母が疲れた顔でソファに座っていた。
母の涙を初めて見た。
なにか会ったのか尋ねると、
母は黙ってテーブルの上に置かれた父のスーツを指差した。
ボクは訳の分からないままスーツに手を伸ばすと、
上着の横に小さな金属片が2つ置かれていた。
「内ポケットに入ってたの」
小さな声で母が呟いた。よく見ると、小さなハート形のピアスだった。