しらすの彼

「君を囮にして怖い目に合わせた俺にこんなこと言う資格ないのかもしれないけれど……君が、好きなんだ」
 え……と、これ……私、告白されているの?
 な、なんて答えればいいの?

 固まってしまった私をどう思ったのか、相良さんはゆっくりと続けた。
「だから、もう声かけないなんて言わないで。これからも、今までみたいに君と話すことを許してほしい」
「そんな言い方、ずるい……」
「え?」
「……許さない、って言ったら、私のこと諦めるんですか?」
 く、と相良さんが息を飲んだあと、持っていたカップを置いて身を乗り出した。
「諦めない。諦めたくない。だから、俺とつきあってください」

 さっきとは別の理由で、また涙が出そう。
 どうしよう。嬉しい。
 囮として利用されたのかもしれないけれど、そのことで相良さんを嫌いになったり、できない。

「相良さん、私……」
 その時、ぐう、と相良さんのお腹の音が鳴った。

「……」
「……」
 相良さんがテーブルに突っ伏す。

「あーもー決まらないなあ。ごめん」
 ふふ、と笑いが漏れる。やっぱり相良さんはかわいくて、それでいてとてもかっこいい。
「気にしないでください。私は、そんな相良さんが好きですよ?」
 勢いよく起き上った相良さんの顔を見ないようにして立ち上がる。

「何か、作ります。お夕飯、遅くなっちゃいましたね」
 冷蔵庫、何があったかな。急いでご飯、炊かなくちゃ。
「俺も、手伝うよ」
 相良さんも立ち上がって、キッチンに向かう私についてきた。
「あ、じゃあお米を……」
 言って振り向いた私の腕を相良さんがひいた。

 初めてのキスは、コーヒーの香りがした。

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