しらすの彼

 ようやく私が立ち上がれるようになると、とりあえず二人で部屋に入る。お湯をわかしてコーヒーを入れる間、二人とも無言だった。
 コーヒーを飲みながら、相良さんがぽつりぽつりと話し始めた。

「俺、時々あのスーパーの私服警備員をやってるんだ。ある時、君を見かけた」
「私? いつです?」
「4月のある夜だった。やけに挙動不審できょときょとしているから、最初は万引きでもするのかと思ったんだ」
「えっ?!」
「しばらく見ていたら、君は覚悟を決めたように、ある女性に声をかけた」
 いつの話だろう。全然覚えていない。

「その女性は、赤ちゃんを抱っこしてて小さい子も連れていた。サッカー台のところで君は彼女に向かって、よかったら荷物を袋にいれましょうか、って言ったんだ」
「覚えていないです」
 でも、時々そういう手伝いを申し出ることはある。