しらすの彼

「あいつ、狙った女性宅に夜中に忍び込んだこともあるんだ。結局同意があったということでそれも不起訴。おそらく脅されていただろう女性の証言を覆すことができなかった。彼女を救ってあげられなかったことが、本当にくやしい。でももしかしたら今回の事で……」
 相良さんの声がぼんやりと流れていく。

 なんだ。そうだったんだ。
 私のことを心配してくれていると思い込んで、一人で浮かれてた。
 ばかみたい。すべて、小野先生を捕まえるために必要なことだったのに。

 私は、膝の上にのせた自分の手をみつめる。
「私を守ってくれたのも、家まで送ってくれたのも……みんなみんな、お仕事のためだったんですね」
 つとめて普通に言おうとしたけど、声が震えた。

 好き、になって、いたのに。
 相良さんは、ただの仕事で私の相手をしてくれていたんだ。なのに、自分が特別のような気になって。
 全部、私の思い込みだったのに。

 無理に作った笑顔を、相良さんに向ける。
「小野先生を捕まえたのなら、もう私に用はないですね」
「浅木さん」
「あは。相良さんといて、とても、楽しかったです。でも心配しなくても、もう、声、かけません、から……」
 あ、泣いちゃいそう。

「違うんだ、浅木さん。俺は……」
 少し焦ったような相良さんの声。
 私は、涙がこぼれないようにぎゅ、と目をつぶった。
「何が違うんですか! 全部……全部、嘘だったくせに!!」