しらすの彼

 もりもりと食べ物が消えていくのを、自分が食べるのも忘れて見つめる。
 気持ちよく食べる人だなあ。それに、食べ方も箸の持ち方もきれい。

 相良さんは、しらすの小鉢を見てしばらくはしを止めた。
「すみません。それ、少なくて」
 ちょっと冗談めかして言った。相良さんも笑ってくれる。

「さすがに5パックは一度に食べないよ。ちゃんと2回にわけて食べた」
「それでも、半分は一度に食べるんですね」
「炊事がめんどくさくなると、なんでも丼にしちゃうんだ。男の手料理なんてそんなもん。こんな風に、ちゃんとおろしまで添えて、なんて手のこんだことしないよ」
 いえ、ただ大根おろしただけです。手なんてこんでません。

「あの時、浅木さんと夫婦に見られてたよね」
「おじさん、勘違いしてましたね」
「あれ、ちょっと嬉しかった」
「え?」
 顔をあげると、相良さんはすでに、お豆腐のお皿を手にしていた。

「作りたての豆腐なんて、初めて食べた。すごいね、こんなの作るんだ」
「あ、えと、好きなんです、これ。よく母が作ってくれて。見た目より簡単なんですよ」
 あの、その前の、嬉しかったって……
 するりと流されてしまったけど、今、すごく私も嬉しいことを聞いた気がする。