しらすの彼

「相良さんこそ」
「ああ、今日は早い仕事があってね。ちょうど通りすがっただけだけど、浅木さんに会えてラッキーだな」
「嘘」
「……?」
「一晩中、ここで見張っていてくれたんですか」
 少なくとも、私が相良さんを見つけてから一時間以上、彼はここを動いていない。だから、もしかしたら夕べから、ずっと。

 私が言うと、相良さんは短い沈黙のあと苦笑した。
「君に見つかるつもりはなかったんだけど」
「ありがとうございます」
 相良さんは、思い切り伸びをした。

「あいつの昨日の様子がちょっと心配だったからね。家まではついてきてはいないと思うけど、念のため……」
「相良さん」
「ん?」
「和食と洋食、どちらが好きですか?」
 相良さんが、目をぱちくりと瞬く。
「和食と洋食? どちらかと言えば、和食かな」
「よかった」
 私は、相良さんの袖を引いた。

「ごはん、作ったんです。食べていってください」
 相良さんが驚いたような顔になった。

「でも」
「私、こんなことぐらいしかできないですけど」
 じ、と目を丸くした顔を見あげる。
「お礼を、したいんです」
 いきなりそんなこと言われたら驚くよね。相良さんが困惑しているのがわかる。
 けど、他にはとっさに考えつかなかった。