しらすの彼

 もしかして……もしかしてだけど、一晩中、そこにいたの? 
 昨日の小野先生と私の様子を見て、心配してくれたの?

 壁と電柱の間にもたれるように立っている姿は、ぴくりとも動かない。相良さんのアパートから駅まではこの道を通らないし、こっちの反対側には家ばかりで目的地になりそうなものはない。通りすがりにちょっと足を止めた、とは考えにくい。
 第一、今はまだ早朝と言うより、下手をすると夜の時間帯だ。

 私の……ために?
 カーテンを握りしめた手から、ゆっくりと力が抜けていった。

  ☆

「おはようございます」
 私が声をかけると、弾かれたように相良さんが振り返った。その目が私みたいにしぱしぱしてたのは、きっと高く上がり始めた朝日のせいだけじゃない。

「おはよう、早いね」
 にこりと笑う姿は、いつもとまったく変わりなかった。