しらすの彼

「役にたててよかった。あの男、いつもああなの?」
「何度か食事に誘われたことはありますが、行ったことはありません。同じ職場なので、あまり露骨に断るのも悪いと思ってなんとなくうやむやにしていたんですけど……」
 ぎゅ、と自分の手を握りしめる。

 怖かった。
 こんなことになるなら、もっときちんと拒絶しておくべきだった。もっとはっきりと言っておけばよかった。

「ごめんね」
「え?」
 急に相良さんが申し訳なさそうに謝った。
「名前、呼び捨てにしちゃったし勝手に触っちゃったし」
「ああ……いえ、こちらこそ急に変な事お願いしてすみませんでした。合わせてくれて、ありがとうございます」
 それよりも、とっさのことだったのに本当の彼氏みたいに守ってくれたのが嬉しかった。すがりついた手を、振りほどかれなくてよかった。
 やっぱり相良さん、いい人だなあ。

「俺は全然。小学校の先生だったの?」
 送るよ、と言って、相良さんは一緒に歩き出す。
「私ですか?」