しらすの彼

「私の誘いは断るくせに、なぜそんな男についていくんですか」
「私の好きなのはこの人です。もう、私に関わらないでください」
「私と一緒に行きましょう。私の方がいい男だと、あなたにもすぐにわかりますよ」
「見苦しいぞ。あんたは振られたんだ。いさぎよくあきらめな」
 相良さんは、初めて聞く険のある口調で言った。ぎ、と小野先生は彼を睨みつける。

「私はあきらめない。これで済むと思うなよ」
「残念だけど、信乃が愛してるのは俺だよ。信乃になにかしたら絶対に許さない。覚えておけ」
 そう言うと相良さんは、私の肩を守るように抱いて歩き出す。足が震えてうまく歩けないけど、相良さんが支えてくれた。後ろから見たら、まるで睦まじく寄り添っているように見えただろう。
 小野先生は、それ以上は追ってこなかった。

「ありがとうございます。助かりました」
 しばらく歩いてから、私はようやく息をはいた。相良さんは、私がちゃんと立てることを確かめて手を離してくれた。