しらすの彼

 はるか後方になった改札を出ようとしているのは、なんと小野先生だった。あたりをきょろきょろとして誰かを探しているようだった。

 まさか……探しているのは、私?!
 なんで?! 私、住んでいるところなんて話したことないのに。学校から、ずっとついてきたの?!
 私は気づかなかったことにして、前を見て足を速めた。怖い。怖い!

「浅木先生」
 遠くから声をかけられるけれど、足をとめることなんてできない。本当は走り出したいけれど、気づいていることを気づかれたくない。
 必死に歩いていると、見覚えのある背中が見えた。私はその腕にしがみつく。

「わっ?! あれ、浅木さん?」
「お願い、相良さん。このまま歩いて」
 私のただならぬ様子に相良さんはちらりと背後を振り返って、きつい目つきになった。

「あの眼鏡の男? 知ってる人?」
「職場の人です。無視していたのに、しつこくて……なんで、ここにいるんだろう」
 話しながら、泣きそうになった。本当に、なんで。
 怖い。