しらすの彼

「小野先生、子供たちに変な事言わないでください
「いいじゃないですか。いずれそうなるかもしれませんし」
 くすくすと笑いながら、私を舐めるように見下ろす。あれもこれも文句を言いたいけれど、子供たちの手前ではあまりきついことも口にできない。

「やめてください。私はそのつもりはありません」
「気の強いところも悪くないですね」
 どう返そうか迷っているところで、チャイムがなった。
「みんな、本は借りたかな? まだの人は浅木先生にお願いして。借りた人は教室へ戻るよ」
「はーい!」
 子供たちは口々に言って本を片付け始める。数人の子どもが私のところへ本を持ってきた。

 貸し出しの手続きをしていると、背後を小野先生が通る。
「私は本気ですよ」
 小さい声で言われて、ぞわり、と全身に鳥肌がたった。
 冗談……だよね。そう言って私のこと、からかっているだけ、だよね。

 そう思っても、背中にうっすらとした嫌悪感と恐怖が張り付いている。