しらすの彼

「せんせー、結婚するの?」
「え?」
 返却された本の整理をしていると、子供たちが声をかけてきた。

「結婚? どうしたの、急に」
「だって、小野先生が言ってたよ。浅木先生と結婚するんだって」
「ええっ?」
 思わず持っていた本を落としかけてしまった。

「しないわよ。小野先生、なにか勘違いしてるんじゃないかな」
「そうなんだー。結婚しないんだね」
「じゃあ浅木先生、僕のお嫁さんになってよ」
「あ、ゆうくんずるいぞ。じゃあ僕も先生のお嫁さん!」
「僕も!」
「私も浅木先生好きー」
 僕も私もと騒ぎ始めた子供たちを微笑ましく見守る。

 二年生って、まだかわいいなあ。
 ほのぼのしかけて、は、と我に返る。

「とにかく。先生はまだ誰とも結婚する予定はないわよ」
「おやおや」
 低い声がして振り向くと、小野先生だった。私は、少しだけ眉をひそめる。