しらすの彼

「は、はい」
「ホント、お前が言うな、って言われちゃうけどね。じゃあ、気をつけて」
「はい。ありがとうございました!」

 ぺこり、と頭を下げて私は自分の家に向かう。階段をあがって自分の部屋の前から下を見下ろすと、相良さんはまだそこでこちらを見ていた。私が家に入るまで見ていてくれたんだ。
 もう一度ぺこりと頭をさげると、相良さんは笑いながら手を振ってくれた。

 部屋に入って、きちんと鍵をかけて大きく息を吐く。
 まだ、胸がどきどきしている。

 相良さん、ていうんだ。名前、教えてもらっちゃった。
 あの男の人のことは怖かったけど、相良さんと知り合いになれたのは嬉しい。
 こんなに近所に住んでいたのね。普段の様子を見る限り、悪い人じゃないと思う。というか……きっと、いい人、何だと思う。

 また、話せるといいな。せっかく知り合いになれたんだし、もう少し、あの人の事知りたい、な。

  ☆