しらすの彼

「じゃあ、ご家族の分は半分くらいになっちゃいますね」
「いや、あれ全部一人分。俺、一人暮らしだから」
「ええっ?!」 
 冗談のつもりで言った言葉だったのに、思いがけない答えについその顔を見上げてしまう。
 私より結構背が高いのにその体はほっそりとしてて、そんなに食べるようには見えない。

「だから大食いなんだって」
 相良さんは、照れたように笑った。
 わあ。やっぱり、いい笑顔するなあ。

「浅木さん?」
「え、あ、はい!」
「どっち?」
 ついその顔に見とれていた私は、交差点で立ち止まっていた。
「あ、あのアパートだから、ここでいいです」
 私は、左手に見えるアパートを指さした。ここには同じようなアパートがいくつも立っている、そのうちの一つだ。

「え、あそこ?」
 相良さんはきょとんとアパートをみあげる。