しらすの彼

 そう言って差し出したのは、免許証だった。確かにそこには、相良太陽という名前と目の前の人の写真が載っていた。本人が出したとはいえ個人情報には違いない。あまりまじまじは見なかったけど、ゴールドのラインが印象に残った。
 真面目な人なんだな。

 簡単に比べられることじゃないけれど、あの男の人と相良さんを比べたら、どう考えてもあの男の人にまた絡まれる方が断然怖い。
 うん。近くまで送ってもらうくらいなら大丈夫かな。

「私は、浅木信乃です。じゃあ、途中まででいいですけど、お願いできますか?」
「わかった。浅木さん? 帰ろうか」
「はい」
 私は、相良さんと並んで歩き出した。気を使ってくれたのか、相良さんは明るく話しかけてくれる。

「君の事、時々あのスーパーで見かけてたよ」
「私もです。しらすを5パックも買ってた時から、なんとなく」
「ああ、俺、大食いなんだ。体使う仕事してるし」
 そうなんだ。現場とか、建設系のお仕事なのかな。その割には、日焼けしてるようには見えない。