しらすの彼

「そうでしょうか」
「うん。それで、あの、決して下心とかないんだけど」
 しらすさんは、言いにくそうに続けた。

「よかったら、家まで送らせて?」
「え?」
「もう暗いし、もしかしてあの男が君に逆恨みでもしてどこかで待ち伏せしていないともかぎらないから」
 私が心配していたことと同じことを、しらすさんも考えてくれたんだ。
 申し出は嬉しかったけど、私は少し、迷う。

 いい人だな、とは思っていたけれど、この人だってどこの誰かも知らない人だ。そんな人に家を知られてしまうのってどうなんだろう。
 そう思う一方で、一人で帰りたくないという思いも強かった。だって、本当にさっきは、怖かったから。

 どうしよう。

「知らない男に送られるのもいやだろうけれど、心配だから。……あ」
 しらすさんは、思いついたようにポケットから財布を取り出した。

「俺、相良。相良太陽っていいます」