しらすの彼

「すみません、お客様」
 声をかけられて振り向くと、困ったような顔をした店長さんだった。

「お騒がせをいたしました。もしよろしければ、何があったかお聞きしてもよろしいでしょうか」
 はい、と受けて、私たちは他の人の邪魔にならないように隅による。そこで私は、中年の男性がレジの女性に絡んでいたこと、彼女に非はないことを伝えた。

「そうですか。ご迷惑をおかけいたしました」
「いえ、私は何も。それより、彼女を責めないでください」
 先ほどのレジの女性に視線を向けると、なにやらお客さんに言われてやっぱり頭を下げていた。でも今度は文句を言われてるのではなく、どうやらさっきの騒ぎを見ていたお客さんに励まされているみたいだった。
 笑顔の二人を見て、私もほっこりとする。

「もちろんです。私たちも、もっと店員の様子に目を配るようにいたします」
 和やかな雰囲気になった店長は、これからもごひいきに、とお茶目に言った。

 スーパーを出ようとして、私はふと自動ドアの前で足をとめた。
 さっきの中年の人、もう帰っちゃったよね。逆恨みされて、待ち伏せしていたりしないよね。