透き通った君に僕の初恋を捧げる


 彼女の名前、出身の中学、それから彼女が死んだ時の話。
 入学前にこの周辺を散策していた帰り道で事故にあったという。一瞬で痛みもなかったと。
 覚えているのは必死にハンドルと切ろうとする運転手の顔だけ。
 自分がどうなっているのか分からないままずっと一人で辺りを彷徨い続け、そして気がつけば入学式の今日、制服を着てカバンを持ってなぜか通学路を歩き学校に来ていた事。
 だがクラス分けの表にも自分の名前は当然無く、わけが分からなくなって体育館で泣いていたと。
 桔梗は淡々と話していたが、俺はそれをなぞって口にしているだけで涙が滲んできた。
 ある日突然日常が奪われる。それは一体どんな気持ちなのだろうか。
 桔梗はたまたま俺が見つける事が出来たが、実家の寺の墓に眠っている人たちの中にもまだ何処かで彷徨っている人がいるのだろうか。

「尊が泣くなよ。」
「あっ…。悪い。」
「別に悪くはないけど。」

 気がついたら頬に涙が伝っていた。
 手の甲で拭こうとしたらはじめにハンカチを差し出された。ありがたく受け取り涙を拭いた。出来る男と言うのはこういうのを指すのだろう。
 桔梗の自己紹介が終わり最初に手を挙げたのはシエナだった。

「一ついいですか?」
「何でしょう。」

 樟葉がシエナを指す。