桜の木の下には一人で座り込んで泣いている女子生徒がいた。
投げ捨てたように置かれている学生カバンには今朝見かけた。否。告白した女子生徒と同じウサギのストラップが付いている。
つまり俺の目の前では何故か好きな女の子が身を小さくして泣いている事になる。
緊張で溢れてくる唾を飲み込み声をかけた。
女子生徒は俺の声に驚き身体が跳ねた後、制服の袖で乱暴に顔を拭った。
ハンカチを持ち歩いていない事をこれ程後悔した日はない。
「誰ですか……?」
ずっと泣いていたのか、真っ赤になった瞳で此方を見上げてくる。女子生徒は俺の顔を見て、今朝の男だという事に気がついたのだろう。
気持ちばかり表情がこわばった。だからと言ってここで引くわけには行かない。
「俺でよかったら話、聞かせてもらえると。嬉しいんだけど…?」
好きな子に話しかけるというのはどうしてこうも難しいのだろうか。
目の前の少女は泣いてコンディションが落ちていても可愛い。
健全な男子生徒の思考能力をいともたやすく奪ってしまうほどには可愛い。
何故か片言になる俺、最高に気持ち悪いだろう。
「……隣、座ってください。」
「あ、ありがとうございます!」
女子生徒は自分の座っている横の地面を軽く叩いて見せた。
好きな人から隣に呼ばれたのだ、こんなに嬉しい事はない。
思わず敬語になりながらありがたく隣に座らせて貰った。
それから暫くお互い無言の時間が続いた。
彼女は再び泣き出してしまったが、先ほどまでのように声をあげて泣くのとは違い。
少し下を向いたまま、ただただその大きな瞳から涙をはらはらと零すばかりだったので大げさに励ますというのも違う気がして彼女の涙が止まるのをまった。
