翌日の月曜日。

「おはよう」と渚が声をかける。

凛は方が震えるほど強ばった顔で朝早くから席に座っていた。

「今日早いじゃん…えっ?はははっ!どうしたのそんな顔して!」

「なぎ…」

「なに?」

どうしても渚に言いたいことがあった。

「なぎ、誰にも言っちゃダメだよ。」

「うん、なに?」

強ばった顔の凛を見たことがないからか、クスクス笑いながら話を聞いている。

「あの…ね、あの…私っ!……八瀬くん好きになっちゃった…かも?」

顔を赤くしながら目線だけ上にあげると、さっきまでコロコロ笑っていた渚が真顔で口を開けている。

途端、目をかっぴらいた。

「え……えぇええええ!!!?????や、や、八瀬…をす……っ!!!」

渚の口を急いで両手で塞ぐ。

「ストップ!言わないで!馬鹿なの!?」

「ご、ごめん…でも八瀬…って夏祭りの…?そらまたなんで…?」

昨日あったことを全て渚に話す。

ただ話すのではなく、にんまりとした笑顔で口角が上がったまま話した。

         ♥

「んでまぁその後ろ姿に惚れたわけだ。なるほどね。そりゃかっこいいわ」

「でしょ?……八瀬くんって何組かわかる?」

「えぇ?会いに行かなくても連絡先交換したんでしょう?」

連絡先は交換したけれど、なんだかムズムズして一向に何も送れない。

凛と八瀬のトーク画面にはお互いに【フレンドに追加されました】としか書かれていないだろう。

「いつも躊躇いなくお馴染みのスタンプ送るのに!?」

「だって!他の男にはウサギのスタンプ送れるよ?八瀬くんには引かれそうで怖いよ…」

「いや逆にギャップ萌えってやつかもよ?今送っちゃいなよ!」

「えっ!?やだよ!」

「今送らなきゃ一生送らないでしょ?」

核心を突かれて肩を竦めながら目を逸らす。

渚との言い合いをクラスメイトに見られているのに気づいて笑って誤魔化す。

渋々頷いてスマホの画面を開く。

トーク画面を開けば、やはり【フレンドに追加されました】としか書いていない。

その画面を見て思わずフリーズしてしまう。

「……なんで止まってんの?」

「…なんて送ればいいの?」

渚は頭を抱えてしまった。

確かにこんな相談したことないから気恥しいけど、そこらの女子がしているような純粋な恋を凛は今している。

「とりあえず、追加ありがとうのうさぎのスタンプ」

言われた通りにスタンプを躊躇いながら押し、送信される。

「よし。そしたら『昨日の夜はありがとう』って送って」

「それ、気持ち悪がられない?」

「いやらしい事じゃないんだから」

またまた言われた通りの文を打ち込んで、お気に入りの絵文字をつけて送る。

まだ既読はつかない。

「…はぁー。今週の気力使い果たしたかも」

「早っ!月曜日だよ?しかも今日体育あるよ?どうしちゃったの凛」

肩を揺さぶられながら問い詰められる。

本当の恋をしたことがない私にとって、これは人生で初めての経験だから。

そう言いたかったけれど、自分に似合わない真面目な言葉だと思って「これが恋か」と呟いた。

画面をつけたり消したりしていると、通知が鳴った。

【 NATSU からメッセージが届きました】

という初めての連絡に頬が赤くなる。

「来た?」

「来た。」

「見てみなよ」

促されるまま開くと…

『いえ。こちらこそありがとうございました。楽しかったです。夜は気をつけて』

昨日の八瀬の顔を思い出して声と文字を照らし合わせると、半端なくにんまりと笑ってしまう。

「あーら優しい。」

「待って…?どう返せばいいの?」

笑顔がなくなり泣きそうな顔で縋り付くと、渚は呆れたように言った。

「とりあえず、また出かけようとか何組なの?とかでもいいから送ってみなさいよ。私がいないとメッセージ出来ないってのやめてよね」

渚を掴んでいた手を離してまた画面を見つめる。

とにかく質問をして聞けるだけ聞こう。

彼のことをもっと知れるように。

息を吸って窓をの外を見ると、ひまわりが増えている。

見慣れた景色にまたひとつ変化があることに親近感を感じた。

息を吐いてから返信をして、顔を上げると渚が鞄を持って立ち上がろうとしていた。

「ほら、グラウンド行くよ」

「…うんっ!」

今年の夏は楽しくなりそうだ。