明後日には七夕がある。
ということは、渚が誘ってくれたお祭りが近付いている。
廊下の掲示板に貼られた『七夕祭り』と書いてあるチラシが視界に入る。
耳からイヤホンを外して、チラシを眺めると、ひとつの文が目に入った。
【浴衣を着て金魚すくいをしよう!】
「浴衣か…」
金魚の絵を見つめながらふと呟く。
小さな頃は、家族とよく祭りには行っていた。
だからこそ、好きな人と浴衣で金魚すくいをするのが夢だった。
そもそも友達と祭りなんてあまり行かなかったから。
明後日、楽しめるかが不安だった。
チャイムがなる前に、チラシから目を離した。
不安を抑えて、イヤホンをまた耳につけた。
♥
どうやら祭りに来るのは、渚と凛ともうひとりの渚の友達である美香という子だ。
美香とはあまり話したことがないから、そんなに話すことも無さそうだ。
それに美香がまたひとり有咲という子を連れてくるようだから私は渚と居ても問題は無い。
あとは男子だ。
もちろん女子が四人になるなら男子も四人。
渚が誘ったのは後輩がひとりの同級生ふたり。あとは先輩がひとりのようだ。
もう先輩には懲り懲りしているから、選択肢は三つなわけだけれど。
まずは見た目で判断する。
渚には判断しちゃいけないとは言ったけれどそんなの時と場合による。
中身中身って言ってもいちばん最初に目に入るのは見た目なんだから。
後輩はクールな子で同級生のふたりは明るめの子らしい。
後輩には近付きずらそうだが、何とかやって見るとしよう。
それから……
「何考えてんの」
「きゃあっ!!!」
突然渚が視界に現れるものだから驚いた。
「はぁ…もう、なによ。」
「険しい顔してなに考えてるの。ていうか、お祭りの事でしょ。」
「えっなんで分かるの!?」
さすが渚だ。
たった二年の中でここまで分かってしまうなんて。
「あのねぇ…。顔に出すぎなの!昼休みもずっとチラシ見てたし。合コンじゃないんだから気楽に来てくれないと。私もこんな険しい友達連れてきたなんて思われたら困るよ」
「ごめんごめん。そうだよね、合コンじゃない…」
自分に言い聞かせるように言ったが、合コンでもいい出会いがないのだから…。
「とにかくそんな険しい顔やめて」
「分かったよ。」
渋々頷いて表情を普段の顔に戻すと、渚が「あ。」と呟いた。
「なに?どうしたの」
「男子軍の名前教えてあげるよ。」
「ほんと?」
どうやら先輩の苗字は佐藤と言うらしいが、そんなに絡む気もないし、名前は覚えなかった。
同級生の二人は、瀬川 遥斗と葵 大地と言うそうだ。
遥斗というのは去年の体育祭で同じ班だったから顔は知っている。
大地は見たことがないから、二人の判別はつきそうだ。
後輩は、八瀬 夏希というらしい。
女の子みたいな名前をしているが、結構顔はいいという噂。
同じ学校だけれど写真を見せてもらっても、記憶の中では見たことは一度もない。
渚は同じ班だった遥斗の事が少しだけ気になっているらしい。
だから『当日、ちゃんと私に合わせてよね!』と圧をかけられた。
少しだけだと念押しされたが、どう見ても完全に恋をしているような顔だった。
その顔になれていることが、正直羨ましかった。