それからじゃんけんで夏希が負けて鬼になった。
負けた夏希は少しだけ鈍そうな顔をして、目を閉じた。
カウントが始まり、足音を立てないように木陰に隠れる。
かくれんぼなんていつぶりだろう。
二十二になった大人二人が、かくれんぼだなんて、笑えてくる。
「三十!それじゃあ探すよー」
夏希は無邪気に所々を歩き回った。
笑いながら見ていると、夏希が見えなくなった。
しばらく戻ってこなくて心配になったけれど、また足音が聞こえてすぐに隠れる。
「みーっけ」
後ろから肩を叩かれて尻もちをつく。
「うわぁああっ!!!」
「あ、ごめんごめん。急すぎた?」
「もう!夜だから怖いよ……」
「だよね、ごめんね。次は俺が隠れるね」
差し伸べてくれた手を掴んで立ち上がると、夏希は手を振って歩いて行った。
そんなにすぐ行ってしまったら、居場所が分かってしまうのに。
カウントをして三十まで終わると、夏希が行った方を探し始める。
真っ直ぐ歩いていくと、街灯の下に夏希が真剣な表情で立っていた。
「え、夏希?まだ隠れてなかったの?遅ーい」
笑っても、夏希は表情が変わらない。
「夏希……?」
進んで光の下に行くと、夏希が口を開いた。
「凛」
「あ、はい…っ」
「今まで、俺と付き合ってくれてありがとう」
唐突な言葉に驚きを隠しきれない。
「あ、いえ、こちらこそ…」とぎこちなく返事をすると、夏希は少しだけ笑った。
「初めて凛と会った時、こんなに長く一緒にいるなんて思ってなかった。」
「そうだね」
「先輩なのに、冷たい俺にも優しくしてくれて。いつも明るくて優しくて」
その言葉に泣きそうになってくる。
「俺、凛の彼氏で居れて幸せでした」
「え?」
「今日を、特別な日にしたかった。凛に、楽しんで欲しかった」
「うん、楽しかったよ」
「良かった…。でも、これからも凛には楽しんで欲しい」
「うん」
「今日カフェで言ったこと覚えてる?」
脳裏に浮かんできたのは、夏希が言ったあの言葉。
『恋人じゃなくなっても、使えるんですか?』
「覚えてるよ」
「夫婦になってから、また行きたかったんだ」
「え?」
ニッコリと笑った夏希は、ポケットから小さな青い箱を取りだした。
大切そうに持っていたそれは、渉さんのイベントで、夏希が預けていたものだった。
「初めて会った時、『苗字似てるの、運命ですね』って言ったの覚えてるかな。」
「言ったね」
「うん。あれは本当に運命だったのかも。出会えたこと自体が。でも、俺は似てるだけじゃなくて、同じになりたい。」
「うん…っ」
声が出なくなってきた。
「ずっと、これからも隣にいて欲しい」
夏希は微笑んで、少し前に出て、膝をついた。
青い箱を開けると、中には輝く指輪が入っていた。
そして言ったんだ。
「俺と、結婚してください」
目の前がボヤけて、気付いたら涙が溢れ出ていた。
「──────お願いします……っ」