翌日の朝。

校門で立っているおさ兄に声をかける。

「おうおはよう夏希」

「おはよう、ございます。あのさ、昨日凛来た?」

「あぁ、綾瀬ならすんごい速さで駆け寄ってきて手を握って感謝してきたよ。相当お前のこと好きなんだな」

おさ兄は、凛が夏希を好きな事知ってたのか……。

まぁ、教室で踊ったって言うくらいなら、学校の半数は知ってそうだ。

「結構凛先輩って、一途なんだね」

「噂の割にはな」

「もうその噂は懲り懲り。」

「お前、結局気持ち固めてんのかよ」

「うん……まぁ、昨日の反応見てから…っていうか、最近のアピールでやられてる」

「だろうな。綾瀬も本気だから、お前も本気になれよ」

まるで今の話がなかったかのように、おさ兄は挨拶に戻っていった。



あっという間に一日が終わり、いよいよ軍会議の時間になった。

と言っても、昨日からもっとフルスピードでアピールをしてくる凛は、教室まで来るようになった。

今日だけで三回。

一週間後には拘束でもされてそうだ。

「んじゃ、軍会議そろそろだから、各教室に移動しろよ。」

白軍はどうやらこのままの教室らしい。

夏希が座ったまま待機していると、二・三年生が教室へ歩いてくる声が聞こえる。

その中でも、ダダダダッと駆ける音。

まさか…と思っている矢先、教室のドアがガラッと開いて凛が入ってきた。

担当のおさ兄が「好きな席に……」と言っている最中に、凛はとっくに横に座っていた。

「よろしくね、夏希」

「凛先輩、もう少し落ち着きましょう」

「あ、そうだね!わかった!」

凛は姿勢をビシッと正して、すぐにヘラッと笑った。

こりゃダメだ、と頭を抱えていると、おさ兄もクスクス笑っている。

まぁそんなおさ兄に、全学年の女子はメロメロ。

凛を除いて。

全員が席に着いたところで、おさ兄の指示により軍会議が始まった。

今日は、係決めと軍ごとの配置、その他諸々を行う予定らしい。

ちなみにほとんどの女子は聞いていなかった。

とりあえず係決めは、言うまでもなく凛と一緒の準備係だ。

応援席を決める時には「一緒に座ろう」と誘われた。

夏希が話しかけるまでも無さそうだ。

凛はニコニコしたまま勝手に話が進んでいった。

色々決まったあと、係ごとの話し合いに移った。

もちろん横には凛がいる。

準備係の代表として任せられた三年生が、話を仕切ってくれた。

「それじゃ、応援団の太鼓出したいやつは?」

「あ、夏希、一緒にやらない?」

「すいません、俺応援団なんですよ……だから、出せなくて」

「応援団!?めっちゃかっこいいじゃん!なんかショックなような嬉しいような……」

そんな会話を繰り広げていれば、三年生は聞かずに話を進める。

「じゃあ次に、応援団の旗を持っていく人。これは、白軍だけだから二人必要」

それを聞いて、また凛から質問される。

「夏希って旗持つ?」

「え?あぁー確か持ちますね。今はフリだけですけど」

「私やります!!」

異様なスピードで係は決まっていき、HRは終わった。

凛に一緒に帰ろうと誘われたが、どこかへ行くと言って見失ってしまった。

どこへ行くかという肝心なところを言わないのも凛らしい。

とりあえず校舎を探すことにしたが、めんどくさくなってきて人に聞くことにした。

おさ兄は知らないと答え、遥風も知らないと答えた。

後の身近で話しかけられる人と言ったら、尊しか居ない。

丁度外でサッカーボールを蹴っていた。

二階から窓を開けて、「おーーい!」と叫ぶ。

「おうどうした?」

「凛先輩見なかったー?」

「見てないけど…見た?」

尊は他の部員にも聞いている。

すると一人の男子が「綾瀬先輩なら……」と口を開いた。

そして体育館の入口を指さして言った。

「体育館に走っていってたよ。さっき水飲んでたらぶつかってきて……なんか『旗見なきゃ』とか言ってた」

「あぁー……ありがとな!尊も!」

名前は知らないが同学年っぽい男子にお礼を言って窓を閉めた。

急いで体育館へ向かうと、白い旗を手に目を輝かせた凛がいた。

「夏希の応援団か……」

と薄くボヤいている。

「凛先輩」

声をかけるとバッと振り返って顔を赤くした。

何も今になって照れることは無いだろう。

「何してるんです?」

「あぁ、いや旗の確認…っていうか?」

「なんですかそれ。ていうか、最近凛先輩おかしいです」

最近思ったことを全て告げると、凛は旗を抱きしめて目を伏せた。

「別に…おかしくないよ」

「おかしいです。何したんですか?」

「想いを伝えるのはいけないことなの?」

「いや、そういう事じゃなくて…いつもの凛先輩じゃないなって。」

しっかりと言うと、今度は俯いてしまった。

なにか考え事をするように、目をキョロキョロさせているのが見える。

夏の暑い日差しが体育館を照りつけて、体が熱い。

「とりあえず、座りましょ」

陰になっている舞台の上を指して、二人で移動する。

凛はやっと話す気になったようで、顔を上げた。

「あのね、なぎが、好きな人にはアタックした方がいいって言ってて」

「はい」

「我を忘れた方が、恥ずかしがらない方がいいって。」

そういう事かと納得した。

遥風なら言いかねないことだ。

「だから凛、頑張ったんだよ。夏希に振り向いて欲しくて、頑張ったんだよ」

「……俺は、凛先輩のままがいいです。」

「でも……」

「普段の凛先輩が、俺は好きです」

これがなんの好きかは言わなかった。

いつか、ちゃんとした場でいいたかった。

二人でこんなにすれ違った後に言うのは、少し違うかもしれない。

「俺がちゃんと気持ち決められたら、凛先輩の元にいきますよ」

「……ありがとう」

嬉しそうに笑っているその横顔から、目が離せなかった。

それから凛は、今までの様な凛に戻った。

好きと伝えてくることや、アピールしてくることはたまにあるが、それでも戻ったことが嬉しかった。

夏希の心は、思ったよりも凛の方にいっていたのかもしれない。