その瞬間彼は驚いた表情を浮かべて、司会者からもらった赤いバラをその場に投げ出して走りだしたのだ。


迷うことなく、まっすぐこちらへと。


会場内が五十嵐浩介の行動に驚き、どよめく。


みんなの視線がこちらへ集まる中、私は五十嵐浩介にきつく抱きしめられていた。


周囲から黄色い悲鳴が湧き上がる。


「えっあの……っ」


しどろもどろになっている私の頭をなでて「大丈夫、泣かなくてもいい」とささやく。


あぁ、どうして彼にはバレてしまうんだろう。


こんなに濡れていて涙かどうかもわからないはずなのに。


「どう……して、私なの……」


まるで子供みたいにしゃくりあげながら聞くと、五十嵐浩介は少し身を離して私を見つめた。


至近距離でカッと顔が熱くなる。


「ずっと見てた。君にメークをしてみたいと思ってた」