五十嵐浩介はそう言いながら私の前髪クリップで止めた。


「ちょ、ちょっと待って、なにをするの?」


慌てて質問すると五十嵐浩介は驚いたように目を丸くして「メークに決まってるだろ?」と、答えた。


ここでメークするなんて聞いてない!


「わ、私メークなんてしないから!」


椅子から立ち上がって教室から逃げ出そうとしたとき「ここからも逃げるのか?」と、声が聞こえた。


それは私の胸に突き刺さる。


思わず足を止めて振り向いた。


五十嵐浩介がジッとこちらを見つめていて、窓から差し込む光に輝いていた。


やっぱり、彼と私では住んでいる世界が違うんだ。


スカートの横でギュッと拳を握りしめる。


「私がメークしたって、笑われるだけだから」


そう言うと五十嵐浩介は目を大きく見開いた。