美穂たち2人は大きな笑い声を上げながら教室を出ていく。


「またイジラれちゃって」


声をかけてきたのは友人の有紗だ。


学級委員を努めている有紗は黒縁メガネを指先で直して、渋い顔を浮かべた。


「まぁ、あれくらいならなんてことないし」


ぶつかられて怪我をしたのならなにか言い返した方がいいけれど、そこまでひどいことをされたわけじゃない。


美穂と有子の笑みを思い出すと少し腹が立つけれど、それも怒るほどのことではなかった。


「そんなこと言ってたらエスカレートするよ?」


有紗にそう言われて内心ドキリとする。


高校に入学してから3年間、特に大きな荒波があるわけでもなく過ごしてきた。


しかし、高校3年生になって受験をするか就職をするかという選択肢を迫られるようになった今、クラス全体の雰囲気がいつもよりもピリピリしてきていることは事実だった。


そしてそれに比例するように美穂たちからのイジリがはじまった。


彼女たちのストレスのはけ口にされるかもしれないという不安は、実は少し前から感じていたことだったのだ。


それをズバリ指摘されて言葉に詰まってしまった。