「そんことないし。ねぇ浩介くん?」


有子が小首をかしげて五十嵐浩介を見上げる。


その仕草はとても可愛くて胸の奥をグッと押されるような感覚がした。


メークや仕草に頼っているといってもやっぱり美穂と有子は可愛いのだ。


可愛くなる努力をなにもしていない私が、あの2人に勝てるわけがない。


「ごめん。この漫画は先に友達に貸すことになってるんだ」


五十嵐浩介は申し訳なさそうに頭をかいてそう言った。


すると2人は目を大きく見開き、それから「なんだそっかぁ! じゃあ私たちはその後でいいよ、ねぇ有子?」


「うん。そうだねぇ!」


2人共五十嵐浩介に嫌われたくなくて必死に取り繕っている。


会話に割り込んでしまった事自体は認めていないけれど、素直に引き下がった。


その様子に私は感嘆してしまった。


有紗はどんな相手にでも尻込みせずに立ち向かっている。


それは素直にすごいことだと思えた。


そんな有紗のことが誇らしくて、つい笑顔がこぼれてしまう。


私はこのとき美穂が睨みつけてきていることに気が付かなかったのだった。