「チッ」


何度も聞こえる舌打ちに目蓋を持ち上げる


同じタイミングで助手席から振り返った優樹さんは


「親父も透さんも電源が落ちてる」


そう言って眉を顰めた


「あ゛?」


二人共とか・・・そんなこと
ある訳がねぇ!

嫌な予感に携帯電話を取り出すと


「もし、朝陽か」


優樹さんは探す手を広げた


「あぁ・・・あ゛?」


朝陽さんの声は聞こえてこないが
どうやら親父達は携帯電話の電源を落としてまで


“何か”をしているらしい


「昴、とりあえず会社な」


「あぁ」


話も読めないまま親父の会社に着いた俺たちは


主不在の社長室で朝陽さんを待った


「悪りぃ、遅くなった」


ほんの数分で額に汗を滲ませて入ってきた朝陽さんは


「昴、お水」


向かい側に腰を下ろした


「何がどうなってる」


「それが・・・」


優樹さんの顔を一度見た朝陽さんは


「うちの親父も連絡がつかない」


驚愕の事実を告げた


「何が起こってる」


「全力で探してる」


端末二台を駆使しているその目が鋭いことに安堵しながら


頭の中は親父達が消えた訳を考える


「・・・橘も、か」


向けられた端末に映るのは
親父の車に乗り込む橘のジジィだった


・・・てことは


「咲羅の実家、か?」


「立川歯科・・・だったよな」


「あぁ」


北寄りの幹線道路沿いに古くからある立川歯科は

大型住宅街の入り口に位置することもあってか医師を複数名抱える比較的大きな病院

そこに生まれた重圧は、例え娘であろうと俺と変わりないはず

『うちってね、代々歯科医の家系なの』
悲しげな咲羅の顔ばかりが浮かんできて胸が苦しい


俺は進む道に後悔はないが
咲羅は・・・そうじゃない


だから・・・必ず救い出す


「翔樹」


朝陽さんの声に視線を合わせる

もう一度こちらを向いたタブレットの中には


花束を抱えて車に乗り込む咲羅が映っていた


「・・・これは」


無理矢理じゃないが肩を押されて助手席に乗り込む咲羅は


遠目に見ても泣いているのが分かる


「このあとは」


「・・・此処」


朝陽さんの指がスライドして現れたのは


森のウェディングで有名なチャペルへ入って行く二人の映像だった


「チッ」


どういうことだ


・・・こんな


まるで・・・



「プロポーズを受け入れて
挙式の予約に来たカップルみたいだな」



優樹さんのストレートな表現に息を飲んだ




side out