「なぁ」


「ん?」


「俺からもひとつ良いか?」


「・・・うん」


なんとなく、真大のことじゃないかと思った

聞かれたら話すつもりでいたから
特に問題もないのに

翔樹はベンチに座っていた私を
わざわざ膝の上に抱き上げた


「咲羅」


「ん?」


距離の近さに煩い心臓がヤバいけど
大人しく抱かれたままでいる


自分のことを話す段階で
避けては通れないと思っていたから

真っ直ぐ切り込んできた翔樹に視線を合わせて
躱せない核心に触れる覚悟を決めた


「ずっと好きな人って、誰」


「幼馴染で彼氏だった人」


「・・・だった?」


「7年前に亡くなったから過去形」


「・・・追いかけるつもりだったんだろ」


まさかそこを突かれるとは思わなくて
鋭い質問に息を飲んだ


「気づいてないかもしれねぇが
咲羅を初めて見た時、そんな目をしてた」


「・・・っ」


「俺たちの住む世界にも
似たようなのは多いが、何も映していない目に出会ったのは初めてかもしれねぇ」


「・・・」


「だから、気になった」


「それで担がれたの?私」


「あぁ、そうだな」


「・・・」


「今でも好きか?」


「・・・そうね、とても」


「一途で良い女だな」


「・・・え」


てっきり“忘れろ”とか“未練がましい”とか言われるのかと思った


だから、その真意を探ってしまう


そんな私を一度ギュッと抱きしめた翔樹は


「好きだ」


予測を裏切ってきた


「咲羅の気持ちがすぐに欲しいとは言わねぇ」


「・・・っ」


「そいつを忘れろとも言わねぇ
その代わり、リハビリだと思って付き合おうぜ」


「・・・え、でも」


「死んだ男が抱きしめてくれんのかよ」


「・・・」
それを言われたら返す言葉がない


「今のところは、気持ちがなくても良い」


「・・・」


「ただ、一番近くにいるのは俺だ
咲羅の名前を呼ぶのも触れるのも、全部俺
俺を全部知って欲しいし、咲羅を知りたい」


一見すると真大に譲ったように思えるそれも

実は真逆


想うことしかできない真大と
触れられる翔樹


その現実を受け入れざるを得ない時期がきてしまった


もちろん


私の気持ちが同じことが重要だけれど
それは今回、嫌というほど自覚した


だから・・・
答えは決まっている


「・・・・・・うん」


受け入れると思っていなかったのか
返事をした途端に


翔樹の両腕に力が入った