「サッサと歩け、グズが」


幹線道路に面した駐車場の隅に近づくと
苛々を隠さない男は背中を押しながら急かしてきた

両手に重い買い物袋を持つ私は、それに躓きそうになるのを堪えながら歩く


「止まれ」


脚を止められたのは黒い箱バンの前だった

男はロックを解除すると側面のスライドドアを乱暴に開けた


「ほら」


乗れと背中を強く押された衝撃に
下げていた買い物袋が足元に落ちた


「・・・ぁ」


痺れた両手を動かして袋を拾おうと屈んだ途端に


背中に強い衝撃が走った


「・・・キャァァ」


踏ん張りが効かない身体は
抗う術もないまま派手に転んだ


・・・痛っ


押されたのか蹴られたのか衝撃のあった背中と
アスファルトの凹凸に擦れた手のひらと膝がジンジンする


「チッ、んなもん持ってるからだろーが」


どちらにしても悪怯れる風のない男を
見上げた瞬間


「・・・っ」


別の意味でも身体が震えてきた


・・・この人、見たことある


私の写真を撮った守衛だ


翔樹から身柄を押さえたと聞いたはずなのに
どうして此処に??


よく見ると腫れた頬に切れた口元
それを隠すように黒いパーカーを被った男は
私が気づいたことに気味の悪い笑い方をした


「おっ、気付いたか、てか
んなことどーでも良いから見つかる前に早く乗れよっ
俺がいながらあんな男に唆されて浮気するとか
ありえねぇんだけど」


「・・・っ」浮気?



歪んだ思いを聞かされて動けない私と周りに散乱する野菜


苛つきからか何度も舌打ちをする男の手には依然銀色に光るナイフが見える



・・・翔樹



このまま車に乗せられたら


きっと


もう



会えない





「早く乗れっ」


焦る声を聞きながら




強く願うのは





翔樹に会いたい


その一択




・・・翔樹



心の中で名前を呼びながら




諦める覚悟を決めた







刹那








「咲羅っ」






強く願った想いが



耳に届いた