あれから、ちゃんと検診できたのか
自分でも自信がない


けれども、上松さんから指摘をされていないあたり


上手くやり遂げたのだろう

医師と衛生士の六名は

検診が終わったタイミングで理事長室に招かれた



そこで、歯科検診の目的を忘れそうな

生クリームタップリのケーキを食べることになった


「立川先生はうちの生徒だったと聞きましたが」


お誕生日席で一番嬉しそうな理事長は
私にばかり質問してくる


「はい」


広げるつもりもないから
短い返事で終わらせるんだけど

全く通じないようで


「しかもSクラスだったそうで」


「・・・」


「お休みの日は何を?」


質問は続く



それって答える義務ある?


可愛らしげのない答えを用意して
でも、それは口を出ることもなく


「ほぼ寝ています」


面白味のない返事をする


こういうところ、大人になったなぁって思う


ん?違う?


これまでは迷うことなく
可愛いらしげのない答えかガン無視だったから

一見すれば面白味のない答えも
私にすれば“大人対応”に他ならない


「てか、お前、質問し過ぎじゃねぇ?」


不毛な時間を断ち切ってくれたのは少し不機嫌な院長


「だって、興味津々ですよ?
美人で白衣着てて、さらに冷たいとか
もう30若けりゃ口説いてるから」


30若けりゃって・・・勘弁

それに白衣で冷たいの希望って色々とヤバくない?


「咲羅は俺の娘になんの、だから
気安く話しかけてんじゃねぇ」


「え、そうなんですか?
婚約してるとか?もしかそうじゃなきゃ
うちの息子でもチャンスはある?」


60過ぎのジジィ二人が
気持ちを逆撫でするような話しかしないって


もう日本も終わりよね?


ギシ、と革張りのソファの音を立てて立ち上がる

それだけで、小競り合いの二人とその他全員の視線を集めた


「お手洗いに」


「案内を・・・」


理事長の申し出を


「要らない、知ってる」


バッサリと断って
甘ったるい理事長室を出た


「あ〜ウザ」


スリッパを鳴らしながら
記憶の中のトイレを目指す


廊下の角を曲がった瞬間


壁にもたれた男子生徒に捕まった


「・・・っ!」


「なにがウゼェの?」


・・・この声