side 翔樹



仕事が終わって乗り込んだ車は
遅い時間なのに僅かな距離に倍の時間をかけた


明日はオフだと優樹さんの説明を聞いて


降りようと顔を上げた瞬間
見えた人物に胸が騒ぎだす


それが一瞬で違う騒つきに変わったのは
隣に立つ男を見てしまったから


「ハァ」


飛び出した咲羅は優樹さんが送ったと聞かされた

更に


「男なら正々堂々と玄関から行け」


親父に妙な釘を刺されたから
きっとバルコニーの件がバレていると色々諦めもした


「焦るな、翔樹
チャンスは必ず転がってくるから」


「あぁ」


余裕こいて返事をしたけど
焦るに決まってんだろ

なにかあるたびに子供扱いされて
挙句の果てに好きにならない発言も食らって

焦らない奴がいるなら連れて来いよ


開けられたドアから降りると
咲羅の姿は既になかった


「おやすみ」


「あぁ」


重い身体を引き摺って中に入ると
咲羅はカウンターで首藤から何か受け取っているところだった


「お帰りなさいませ」


真っ直ぐにエレベーター前へ向かうと
呼び出しボタンを押して待っている二人が静かに頭を下げた


到着したエレベーターに乗り込むと
荷物持ってこちらを見た咲羅と目が合う


・・・乗って来ねぇか


ショックだけど今朝の俺を許していない咲羅からすれば
小さな空間に閉じ込められるのは苦痛になるはず


諦めの気持ちでクローズボタンを押そうとした俺に


「乗るから」


少し不機嫌な咲羅の声が聞こえた


慌ててオープンを連打する
あぁ、俺って単純だ


できるだけ平静を装いながら
乗り込んできた咲羅をチラ見する


「両手塞がってるから押して」


こちらを見ることなくボタンを押せと言うそれも

俺にとっては嬉しくて即座に反応したが


「余所見しやがって」


口を突いて出た本音は咲羅の視線を動かした

それによって僅かに傾いた箱に視線が移る


「それなんだ」


「・・・段ボール箱」


んなこと見りゃ分かる


「チッ、頼みものか?」


「預かったんだって」


「あ゛?お前、馬鹿じゃねぇの?」


胸の高さで抱えられたタブレット程の小さな段ボールを咲羅の手から取り上げる


「ちょ、なにすんのよっ」


「危機感を持てって言ったろ?」


「は?」


「宛先もないような荷物を受け取って
爆弾でも入ってたらどうする!」


「・・・そん、な」


「首藤は中身を確認したのか?」


「いや、断った」


「テメェ、ふざけるな」


箱の軽さに爆弾は入っていないと確信するが
出所の分からないものを受け取るとか危機感がなさすぎだ


宅配便でもない無地の段ボールに貼られたテープを一気に剥ぎ取る


蓋を開いた途端に目に飛び込んできたのは


数枚の咲羅の写真だった