「ありがとうございました」


開けて貰ったドアから降りると


「翔樹が悪かったな」


関係ない優樹君に頭を下げられた

この人の所為じゃないけど
ここはそれも利用させて貰うことにする


「翔樹って部屋のバルコニーにある避難用口から飛び降りてくるの
ちょっと迷惑してる、悪いけど優樹君からお父さんに伝えてくれる?
次は通報します、ってね」


「・・・」


一瞬で眉を寄せた優樹君にもう一度お礼を言って
今度こそ背中を向けた




・・・



「ハァ」


白いソファに寝転がって天井を眺める


何度も何度も吐き出すため息と


無意識のうちに触れている唇



シンとした部屋で




思い出すのは


大嫌いと言ったあとの


泣きそうな翔樹の顔で



「なんなの」



まるで私が酷い女みたいじゃない


それに言い訳していると


携帯電話の着信音が流れ始めた


【橘院長】


スッと指をスライドさせて耳に当てた


(咲羅、暇か)

「なんで暇限定なのよ」

(どーせ暇だろ?)

「暇だけど、心身共に疲れてる」

(ハハ、そりゃ良いな)

「なにが良いのよ」

(そんな咲羅を食事に誘ってやるよ)

「いつ?」

(今夜)

「全然行きたくない」

(蟹だぞ?)

「・・・・・・行く」

(5時に迎えに行く)

「楽しみにしてるわ」

(あぁ)


なんて簡単な女だろうか

こんな夏に蟹で釣られるなんて・・・

安い自分を笑って
少しお昼寝することにした


アラームは3時半


睡眠を邪魔された朝を思い出しながら
寝室へと入るとベッドに潜り込んだ