「・・・クソガキ」


あのクソガキの所為で
知らない道を道路標識を頼りに歩いている


それもジリジリと暑い夏の昼
半袖とショートパンツ、サンダルという軽装で


「ムカつく」


勢いよく飛び出したのは良かったけれど
門番に捕まること二回

セキュリティの高さには感心したけれど


ハッキリ言ってウザイ


だから、脅してやったわ


『麻酔なしで歯、抜くわよ』ってね


大体、これで男の人はビビるの

んで、ようやく外に出られたんだけど


そこでハタと気付く


「ここ、どこよ」


あ〜苛々するっ


勝手にバルコニーからやって来て
勝手に外へ連れ出して

勝手に“ヤ”のつく魔窟に連れ込んで

勝手にキスをした


「何が“俺じゃダメか”よ!」


真大以外好きになんかならないの


「比較対象にしないでよ!」


ほんと、ムカつく


大学時代も極力異性と関わらなかったから


こちらのテリトリーにまで踏み込んでくる人は一人もいなかった


だから・・・


油断していたんだと思う


そうでも思ってなきゃ


「許せないっ」


「悪りぃ」


「・・・っ」


勢いに任せていた足が
突如聞こえた声に止まった


ハッとして振り向いたそこには
チノパンにTシャツというラフなスタイルのイケメンが立っていた


・・・怖


私の独り言に入ってくるって
どういうつもりよっ


そう思っても言わないわよ?
魔窟の食堂で従兄弟で『翔樹の付き人』と挨拶をされたからね


ってことはソッチ側ってことでしょう?


「送ってく」


「結構です」


「親父からもキツく言われてる
ここは親父の顔を立てて送られてくれねぇか?」


「・・・」ほんと、ムカつく


ジロリと見た先には翔樹に病院へ送ってもらった車が
音も立てずに付いてきていて

気分がさがる

翔樹のお父さんの依頼で来てるということは

きっと、このままマンションまでついてくる気だろう


「翔樹は乗ってねぇ」


諦める気持ちと共にため息を吐き出して
「分かりました」

嫌そうに承諾してやった


「助かる」


そう言ってドアを開ける優樹君に頭を下げて車に乗り込んだ


・・・あ〜涼しい


快適な車内にホッとして
なるべく前席を見ないように窓の外に視線を置いた