「女の子の部屋だからね」


「クッ、そうだな」


少し空気が和んだ気がしてホッとする


「まだ飲むか」


「じゃあ、もう一本だけ」


「了解」


立ち上がった翔樹見て、最後のお寿司を頬張った


「ご馳走様でした」


翔樹が注文した寿司折は三つ
ネタの大きなお寿司を一人前食べるだけで一生懸命だった私と対照的に

翔樹は二人前を簡単に胃袋に収めた


体格と若さと・・・
考えているうちに


「ヒャッ」


頬に冷たい感触があった


「クッ」


「アンタ、私の心臓縮める気?」


「んなことで縮まるか」


頬に当てられたビールをそのまま奪って飲む


折角優しくしてあげる気になったのに
クソガキはやっぱり生意気だ


「お寿司代、払うわ」


「要らねぇ」


「それは困る」


「そもそも、俺が咲羅を拉致したんだ」


「拉致したつもりはあるのね」


「クッ、そうだな」


私は歳上で収入もある
だから


「払わせて」


「じゃあ、寿司の礼に今度俺に付き合えよ」


「・・・え」


「嫌か?」


上目遣いに、声のトーンまで落とすとは、なんて狡い聞き方だろうか


「嫌、じゃないけど」


「じゃあ決まりな」


途端に上がるテンションに
上手く丸め込まれた気もするけど


大トロまで入っていたお寿司のお礼だから
一度くらい付き合ってあげても良い、よね?


誰にするでもない言い訳を
頭の中で独り言ちた


「咲羅」


「ん?」


「今までも、そんな格好で外に出てたのか?」


「・・・今夜は緊急だったのよ」


「もう二度と出ようと思うなよ」


「なんでよ」


「お前、危機感ってものがねぇのか」


「危機感って、これくらい大丈夫よ
それに、此処から歩いてもすぐだし
翔樹が心配しなくても、案外声を掛けてくる相手なんていないものよ」


「分からねぇなら、夜は出られねぇように手を回す」


「・・・は?・・・横暴」


「なんとでも言え」


この後、全く取り合ってくれない翔樹に
諦めたのは私のほうだった