翔樹が落ちてきた翌日



いつものように自分のベッドで起きた私は


「・・・っ」


昨日ことを思い出そうと
必死で記憶を手繰り寄せていた


「えっと」


どうやってベッドに寝たのか
朧げどころか、欠片も残っていない


リビングを通り抜けて窓を開ける


バルコニーのソファの脇に置かれた小さなテーブルには


ビールの缶が六本


・・・最初の2本しか取りに入った記憶がない

お酒は強いはずなのに
数本程度で酔うなんて・・・


「・・・最悪」


バルコニーの天井は夜と同じく開いたままで
翔樹が落ちて来たことが現実だと告げている


潰された缶はそのままに、他の缶を持ってキッチンへと運んだ


まさか天井からは帰れないよね?
緊急の縄梯子もあったはずなのに

翔樹はそのまま落ちてきたから
飛べない限り帰れない、はず


となると・・・


慌てて向かった玄関は施錠されていた


鍵を渡したっけ?


可能性はゼロじゃないからと
バッグの中とスペアキーを確認してみたけれど

どちらも残っている


「ハァ」


全然分からない


分からないけど


もういいか、って思えた

真大の逝った日は泣いて、泣いて、泣いて翌朝を迎えた経験しかない

だから、あんな風に言い合いをして
笑い合って、乾杯して


初めて生きているという感覚がした


17歳のクソガキだけど
そのクソガキに救われたから


もういい


薄皮を剥がすように、少しずつ


真大を思い出にしよう


そのキッカケを与えてくれたあの手紙と


神出鬼没な翔樹に


本当の意味での「ありがとう」が言える瞬間だった