side翔樹



真っ赤に充血した目が俺の話に相槌を打つたびユラユラと揺れる


一生分泣いたんじゃねぇのかよ


涙を拭ってやることしかできねぇ関係がもどかしい


そんな俺ができることは・・・


くだらねぇことで笑わせてやるぐらいのことで


「俺、双子でさ、それも弟なわけ」


「・・・ん」


ユラユラと俺を映していた目が
何度か瞬きをしたあと


完全に閉じられてしまった


「だから無防備過ぎるって」


グラリと揺れる身体を支えて
小さな手からビールの缶を抜く


夏とはいえ、雨の所為で肌寒い夜に
此処には置いておけない


起こさないように抱き上げて
部屋の中へと入った


親父の側近の透さんが居た頃とは違って

温かみのある白で統一された室内はシンプル

差し色のように点在する淡いピンクが咲羅のセンスの良さを際立たせている


それに・・・なんだか良い匂いがする

これって、サクラがつけている香水かなにか・・・


姉貴と従兄妹の部屋にしか入ったことはない

こんなに興味を持ったことはないが
居心地の良さそうな落ち着ける部屋だと思った


咲羅を抱いたまま窓を施錠して
記憶をたどりながら開けた部屋は


リビングと同じように
咲羅のイメージ通りの寝室だった


そっと寝かせて布団を掛けてやる


「おやすみ」


長い睫毛が縁取られた目蓋に唇を寄せると寝室を出た


迷いなくリビングに戻ってコンシェルジュへと繋がるボタンを押した


(・・・え、あ、堂本様)


いつもと違って動揺をみせた首藤も
俺の指示に従って咲羅の部屋の鍵を持って上がってきた


「閉めといてくれ」


「畏まりました」


玄関が施錠されたのを確認して
エレベーターホールへと向かう俺に


「あの」


斜め後ろをついて来ていた首藤が控えめに声をかけてきた


「なに」


「堂本様・・・靴は」


「・・・問題ねぇ」


「・・・」


バルコニーから飛び降りるのに
サンダルが邪魔になると思ったことが


辱めを受けることになった、な


またひとつ咲羅との会話に繋がるネタができたことに口角が上がっていた






side out