「サクラってどんな字?」


急に話が変わったことに
考える間も無く


「花が咲くの咲に羅針盤の羅」


何故か答えてしまった


「へぇ」


会話は短い言葉で断ち切るのが常なのに


「トキは?」


何故聞いてしまうんだろう


「飛翔の翔に樹木の樹」


「へぇ」


「なんだよ」


「有り難がりなさいよっ
聞いてあげたんだからね」


いつもとは違う自分を誤魔化すように壁を作ろうとしたけれど


「はいはい」


ムカつくのに、一緒にいるのは嫌じゃないし

翔樹には通用しない


でもそれは、はるか歳下の男の子だと認識しているからに違いなくて


「お姉様って呼びなさいよ
お子ちゃまの癖に」


揶揄いの対象で良いのだと完結する


「何歳だよ」


「24歳」


「今年24歳になんの?」


「今年というか早生まれだから年明けに25歳になんの」


「へぇ、オネーサンな
俺、今年18歳になる」


「知ってる」


高校三年生なんだから、何かない限り18歳になる歳だ


そして・・・
真大が逝ってしまった歳


声も仕草も見た目も匂いも

なにもかも全部、違うのに

翔樹は真大の持つ雰囲気と似ている


初めて会った瞬間に感じた肌の感じは
真大の笑顔を見るたびトクンと跳ねた胸を思い出させた


だから、嫌じゃないだけ


ただ、それだけ


泣いた所為で重い頭が


低い翔樹の声に眠気を誘う



「・・・でさ、・・・な・・・」


なに、なんて・・・言ったの?


落ちていく意識の隅に


懐かしい真大の“おやすみ”が聞こえた気がした