真大の家と実家は隣同士


最期を過ごした橘病院は抵抗がないのに
実家に戻るのには少し勇気が要る


こうやって七夕の日に真大の家にお邪魔しても
隣の実家には顔も出さずに帰る


もちろん今日もそのつもりで叔母さんにタクシーを呼んでもらった


「咲羅ちゃん平気?」


「うん」


此処から帰るのだって勇気が要るから
泣いたまま帰りたい


「咲羅ちゃん宛てだったけど
叔母さん、読ませてもらったの、ごめんね?
真大の書いてある通り、咲羅ちゃんには幸せになって貰いたい
だから、次に来る時は幸せな話を聞かせて欲しいわ
毎年泣きながら帰る咲羅ちゃんを見送るのは
叔母さんも叔父さんも辛いから
前を向いて頑張って欲しい」


叔母さんの想いに頭を下げて
七夕の一日は終わった




・・・



夜はビールを片手にバルコニーへと出て

あの頃には飲めなかったお酒を乾杯するように持ち上げた


ジメジメとまとわりつく重い空気は夜になって降り出した雨の所為

鈍痛のする頭は、酷く泣いた所為だろう


私が17歳、真大が18歳
悲しい別れは7年経った今でも私の心の中心にあって


あの頃より随分可愛らしげがなくなった


前を向いて頑張って欲しいと言われても


どうしていいのか分からない



「真大」



応えてくれなくたって


こんなに好きなのに



なんで私だけ進ませようとするのよ



「馬鹿っ!!」



漆黒の空に叫んでビールをグイッと飲み干した瞬間



バルコニーの天井に穴が空いて



何かがドサッと落ちてきた






「・・・っ!!!!」