「またアンタなの」


「アンタじゃねぇ」



歯科検診の翌日から橘病院の通用口で仕事終わりを待ち伏せされるようになった


「不愉快」


何が不愉快って


有名らしいトキは私を待ちながら此処の看護師達に囲まれている

それに全く反応しないらしいトキの所為で

私が高校生のトキを囲んでる脳みそお花畑の看護師達の標的にされているのだ

ま、これも上松さん情報だから
私自身は気にしてなかったんだけど


そろそろ限界


「アンタさ、高校生だから
帰って宿題したら?」


Dクラスなら宿題なんて無さそうだけど


「あ゛?」


「周りの状況が読めない愚図みたいだし」


「・・・なんだと」


「ほんと不愉快なんだけど」


「チッ」


「これ以上続くなら
ストーカー規制法で罰してもらうとか
なにか方法を考えるわ」


「あ゛?」


この子が此処に現れる目的も
考えたくない


大好きな彼にまた会える日のために
毎日をどうにかやり過ごしている私の


脚を止められるなんて、ごめんだ


「ヨォ、クソガキ」


背後から聞こえてきた院長の声に
臨戦体制が崩れた


「うちの娘に毎日絡んでるらしいじゃねぇか」


「・・・迎えに来てるだけだ」


「翔樹、お前の真っ直ぐさは悪くねぇ
だがな?少し周りに意識を向けてみろ
お前が此処に居る所為で看護師達は色めき立って
お前が迎えに来てる咲羅を目の敵にしてる
それに気づかねぇのか?」


「・・・っ」


院長の言葉に漸く周りを見たトキは
視線を私に戻して「悪りぃ」と眉を下げた


良くも悪くも“高校生”
トキはただ、自分の思いに真っ直ぐなだけなのだろう


「迷惑、か?」


私より背が高いトキが捨てられた子犬みたいに小さく見える


・・・迷惑


短い言葉で切るだけなのに


なぜかそれが口から出ることはなかった