「あ、あなた、何を・・・」


周りの焦りを目にするだけで
私の意識は逆に冴えてくる

これまで立川の家では祖母に意見するなんて許されないこととされてきた

だから今回のこれは祖母自身にとっても不測の事態

驚愕に怯んだかに見えた祖母が
反撃に出るのはすぐで


そのことに高鳴る胸は
初めての反抗に力を与えてきた


「だから、ストーカーって何のことですか?」


「橘の守衛があなたにしたことと聞いているわ」


「私ですか?それは初耳ですね
私自身に身覚えがないのに
ストーカーなんて」


「咲羅、黙りなさいっ」


「怪我のことを言っているのなら
これは私の不注意で転んだだけのこと」


「なっ、」


「それに、お婆ちゃん
私がストーカーに怪我をさせられたって
どこにそんな証拠があるんでしょうか?」


“立川の娘らしくいつも冷静で気高くありなさい”


祖母の言いつけ通り
背筋を伸ばして対峙する私に

祖母は遂に言葉を失くした


ストーカーの件を無かったことにした時点で
橘院長と翔樹のお父さんは此処に居る意味を失っている

微動だにしない四人を切り離して
決意を込めて祖母に向き合った


「立川の家を出ることにします」


「・・・え」


「ここまで育てて頂きまして
本当にありがとうございました」


「咲羅」


「私のことは死んだと思ってください」


「・・・っ」


私に逃げ道を作らせないように
真大に似せた輝大さんを使うあたり
祖母には人の心がない

だから・・・


ここを出て行くことに迷いはない


少しの心残りがあるとすれば


向かい側で悲痛な顔をしている父と
輝大さんとの結婚を解消するために祖母を説得すると言ってくれた兄のことだけ


「咲羅」


「ん?」


「幸せになるんだよ」


「はい」


「家を出ても咲羅は俺の大事な娘だ
だから、いつでも頼ってきなさい
それに、此処は咲羅の家だよ
誰にも遠慮しなくて良いからね」


「・・・はい」


真大の元へと急いでいた人生を
もう一度仕切り直すために

父が願ってくれるなら
私も努力をしようと思う

立川の娘として立川のために生きる道と
その全てを捨てて始める人生
天秤にかけたのは私自身だった

溢れる涙を拭って
橘院長と翔樹のお父さんへと身体を向けた


「家のことでご迷惑をおかけしました」


深く頭を下げると橘院長は「咲羅」と苦しそうな顔をした


「堂本、さんも、足を運んで頂き
ありがとうございました
改めてお詫びとお礼に伺います」


「こちらの心配は無用だ」


重い空気の中
放心状態の祖母を放って


四人を見送る


家から出た途端に口を開いた院長の謎かけに首を傾げた


「咲羅、お前が一番の助っ人だった」


「・・・?」


暫しその顔を見ていたけれど
答えを言わない様子に諦めた


駐車場から車が出たあとは
もう一度、重い家の中に入ることへの嫌悪感に歯を食いしばった