過去のあの日を思い返そうとした私を見越してか、菫さんの指先が私の顎に添えられた。
顔を上げて菫さんと見つめ合うこと数秒。
それはあまりにも永遠に近い一瞬の出来事だった。
菫さんの綺麗な顔が近づいてきて、彼はそのまま私の唇を奪った。
「んっ」
リップ音が聞こえ、現状を理解すると同時に菫さんの身体が私を家の中へと押し込む。
彼の背中越しに玄関の扉が閉まった。
――――逃げられない。
そう思ったと同時に菫さんのキスが深くなっていく。
彼の舌が私の口内を蹂躙し、歯と歯がぶつかり合う。
歯列をなぞられると、得体の知れない快楽が私を襲った。
菫さんのキスはしっとりとした甘さを含んでいた。
「っ、はぁ」
菫さんの吐息が耳にかかる。
それだけで腰が砕けそうになるほどの艶やかさが彼の声にはあった。
私の腰に手を添えた菫さんに誘われながら、私の部屋へと二人で戻る。
彼と再び向かい合い、唇を重ね合わせた。
キスに夢中になっている間に、菫さんの繊細な手が私の服を剝ぎ取っていく。
私はただ彼になされるがままだった。
電気が消えた自室の窓から淡い光が降り注ぐ。
その光に合わせて花火の音が遠くで鳴っていた。
「夏祭り、始まったね」
顔を離したあと、菫さんはそう言った。
私は艶めく唇から目を離せないでいた。
「うん、そうみたい」
暗がりの中、花火の光だけが頼りで菫さんの表情はよく見えない。
彼はそのまま私の頭を抱え込む。
菫さんの胸に顔を埋めて、彼の鼓動を聞いていた。
心地が良くて、幸せで、些末なことなどどうだって良い気がした。
このまま時が止まればいい。
本気でそう願った。


