イーニシュフェルト魔導学院、オープンスクールのその日。

俺達教師陣は、朝から忙しくしていた。

「こっちがミルクチョコ、こっちがホワイトチョコ、こっちがストロベリーチョコ…よしっ、完璧!」

来場者に配布する為、大量のチョコレート菓子を、大量のシルナ分身が小分けにしてラッピング。

その才能、別のところに活かせんのか。

他にやるべきことあるだろ。

お前体験授業担当なんだぞ。覚えてるんだろうな。

まぁ、毎年のことなので大丈夫だろう。

そして。

「あぁ、忙しい忙しい。猫の手でも良いから借りたいですね」

いつもテキパキと忙しそうなイレースは、今日も一段と忙しそう。

説明会で配る資料、入試関連資料、学院案内図など、その他様々な資料を仕分けている。

何なら、あの資料、作成したのもイレースだからな。

いつもお前の働きには助けられてるよ。

すると。

「あの、僕で良かったら手伝うよ」

イレースが、猫の手でも良いから借りたい、と言っているのを聞いて。

天音が率先して、手伝いを申し出た。

偉い。

「そうですか。では遠慮なく…はい」

「うっ」

イレースは、仕分け終えた大量の資料のタワーを、天音に手渡した。

ズシッ、って効果音聞こえたよ今。

「それを、説明会会場まで運んでください」

さすがイレース。容赦ねぇ。

「わ、分かった。が、頑張る…」

天音は、ふらふらしながら紙の束を抱え、会場となる講堂に向かった。

だ、大丈夫か?

俺も俺で準備があるから、手伝ってやれないのが申し訳ないが。

しかし。

「…お前は何やってんの?」

「え?ちょっと前髪整えてます」

何故か、オープンスクール当日の朝に、はさみ片手に前髪の散髪に勤しむ者がいた。

誰あろう、我がイーニシュフェルト魔導学院の読心魔法教師である。

何をやってんだ、本当に。

何で今?

「だってほら、僕、今日体験実技授業の担当でしょう?」

「そうだけど…」

普段から、実技授業担当が多いナジュは。

今日のオープンスクールでも、体験実技授業の担当になった。

以前までは、実技授業の体験まではやっていなかったのだが。

イーニシュフェルトの教師陣も、段々増えてきたし。

まぁ、こっちの話だが、無駄にイケメンなナジュが体験授業してくれたら。

「こんな先生がいるなら、イーニシュフェルトに入りたい!」って思ってくれる生徒も、いるかもしれない。

イレースに言わせれば、そんな不純な動機で受験するなんてとんでもない、らしいが。

今日日、制服一つでさえ、学校選びの基準になり得る時代だからな。

イーニシュフェルト魔導学院だって、自分達は名門校だと思ってうかうかしていると。

今の若い子達は、別の魔導師養成校に流れていってしまうかもしれない。

学院としては、当然そのような状況は避けたい。

折角、うちにはイケメンカリスマ教師(自称)がいるんだからな。

ちょっと、そういうところもアピールしていこうかな、という試みである。