…シャネオンからの列車が、全便運転見合わせ。

成程、一向に生徒が帰ってこない理由はそれだな。

南方都市シャネオンは、ルーデュニア聖王国でも、王都セレーナに負けず劣らずの大都市。
 
当然、シャネオンからセレーナまでの直通便が運行している。

よって、王国南部に住む生徒達は、一度シャネオンの駅を中継して、まとめて王都までやって来ることになる。

しかし、その大都市シャネオンの駅で、列車が止まっているならば。

そりゃ帰ってこられない訳だ。

成程、戻ってきていないおよそ50名の生徒は、シャネオンで足止めを食らっているんだな。

気の毒に。

他の手段で王都まで帰ろうにも、まさかタクシーでシャネオンからセレーナの長旅をする訳にもいかず。

長距離バスもあるにはあるが、ほとんどが事前予約制だし。

シャネオンの駅がそんなことになってるなら、バスの方もごった返して、とても生徒が乗り込めるとは思えない。 

徒歩で…っていう選択肢は有り得ないし。

まぁ、世の中には。

シャネオンより更に遠く離れた、北方都市エクトルから、走って王都まで帰ってきた脳筋親馬鹿な男もいるが。

あれは最早人外生物みたいなものなので、ノーカンだな。

「そういうことですか…。列車の運休…それは如何ともし難いですね」

「何かあったんですかねー。線路トラブルとか?」

と、イレースとナジュがそれぞれ言った。

まぁ、駅で何らかのトラブルが起きたんだろうな。

「で、運転再開の見込みは?」

「まだ全然だって…。この調子じゃ、今日中に生徒が戻ってくるのは無理だと思う…。ごめん」

「別に天音のせいじゃないだろ」

そんな申し訳無さそうに言わなくても。

列車が動かないんなら、仕方がない。

例え今日中に運転再開したとしても、駅構内は客でごった返しているだろうし。

運転再開後は、間違いなく満員列車になるだろう。

シャネオンからセレーナまでの長旅を、人にもみくちゃにされながら帰ってくるのは、あまりに可哀想だ。

無理して乗り込もうとして、怪我でもしたら馬鹿らしいしな。

こうなったら、もう戻ってくるのは明日以降でも良いから。

無理せず、安全に戻って来てもらえれば良い。

「仕方ない。天音、シャネオンの駅に連絡してくれるか?うちの生徒に、明日以降でも良いから、焦らず帰ってくるように伝えて欲しい」

「そうだね。一日経てば、列車も落ち着くだろうし…。連絡しておくよ」

悪いな。

「ちっ。私の二学期の完璧な授業計画が…。まぁ仕方ありません。戻ってきた生徒には、補講を入れて対応しましょう」

と、舌打ちを挟みながら言うイレース。

さすが、元ラミッドフルスの鬼教官。たった一度の授業の遅れさえ許さない。

一回くらい休んだって良いじゃんと、個人的には思うが。

そんなことを口に出そうものなら、鬼教官の牙が剥くからな。

やめとこう。

すると。

「…ふふっ」

読心魔法教師のナジュが、何やら密かに笑いを噛み殺していた。

おい、お前。今誰の心を読んだ?

すかさず、

「全員読んでますよ」

と、ナジュは答えた。

「全員読むな馬鹿」

お前、そんなことやって、前回倒れたの忘れたか?

「戻ってこられないんだって…。間の悪い人達だね」

「俺は別に、ツキナが戻ってきてるから、残りの生徒はどうでも良いけどねー」

と、割と冷たい元暗殺者組である。

お前らは、いい加減教室に帰れよ。

何でまだここにいるんだ。

…それで。

「おいナジュ、お前、今何を笑った?」

「見たら分かりますよ、ほら後ろ」

「後ろ?」

言われて振り返ると。

そこには、ズモモモモ…と謎の覇気を放つ…。

シルナの姿があった。