神殺しのクロノスタシスⅣ

一通り、思いつく限りの自殺を試して。

そのどれもに失敗して、それから僕は考えました。

生きていることから逃げられないのだとしても、現実逃避は出来る。

僕は頭の中で、どうやったらこの苦しみや悲しみから逃れられるのか考えました。

一人ぼっちで。

僕もね、最初から…誰かに殺してもらおうなんて、トチ狂ったこと考えてた訳じゃないんですよ、これでも。

最初は、真っ当な方法で生きようとしたんです。

どうやっても死ぬことが出来ないなら、頑張って生きるしかない。

そんな風に思ったこともあるんですよ。これでも。

今となっては、浅はか過ぎて笑いが出ますけどね。

最初に思いついたのは、リリスと同じことです。

不死身の自分に…寄り添ってくれる人を見つけようとした。

自分を慰め、傷を癒やし、心をいっぱいにしてくれる人。

そんな人がいれば、きっとこの苦しみにも耐えられる。

リリスがそうでしたから。僕も同じだと思ったんです。

でも、この作戦は駄目だった。

駄目に決まってますよね。

僕の心は、空っぽじゃなかった。

既に、リリスという存在が僕の心に深く、強く根付いて消えなかった。

どんなに「代わり」を充てがって愛そうとしても、それはリリスの代わりにはならない。

むしろ、リリスがいない悲しみが際立って、空虚な思いになるだけ。

どんな人間でも、リリスの代わりにはならない。

リリスと同じくらい優しい人でも。

リリスと同じくらい美人な人でも。

リリスと同じくらい強い人でも。

それはリリスじゃない。

リリスとは違う、別の人間だ。

そんな人を僕は愛せない。それは別人だから。リリスじゃないから。

僕が愛することが出来たのはリリスだけで、それ以外の人ではなかった。

生まれてこの方、リリス以外を愛したことがなく、リリス以外に愛されたことがない故に。

他の誰かで欠落を埋める、なんて器用なことは…僕には出来なかった。

リリスでないと、僕は駄目だったんです。

弱いですよね。

本当に…弱くて…みっともないですよ。

リリスはもういないんだから、前を向いて、別の人を愛せれば良かった。

それが出来るほど、強い人間であれたら良かった。

リリスは僕が他の誰かを愛したって…きっと、嫉妬したりはしなかったはずだ。

僕だって、逆の立場ならそうだったから。

リリスが僕を失った悲しみを、他の誰かが埋めてくれるのなら、僕はその人に感謝する。

どうか僕の思い出を過去にして、新しい人と新しい人生をやり直して欲しい。

リリスが幸せなら、僕も幸せだから。

むしろ、好きな人が自分を失った悲しみにいつまでも囚われて…前に進めないままなんて…。

それは…あまりにも、申し訳ないから。

リリスもきっと、そう思うはずだった。

そんなことは分かっていた。

僕がいつまでもくよくよして、前に進めないままでいたら…リリスだって報われない。

僕が不死身の身体を受け入れて、前に進むことを望んでいるはずだと。

そう分かっているのに…僕には出来なかった。駄目だった。

僕はいつまでも、過去に囚われたままだった。

リリスの代わりなんて、何処にも見つけられなかった。

この欠落を埋めてくれる…何物も…探せなかった。どうしても。

僕はリリスでなければ、駄目だったのだ。

生まれてから、リリス以外の誰にも愛されたことがなかった。リリス以外の誰も、愛したことがなかった。

だから、他の人との間に、リリスに見つけたものを見つけられなかった。

リリスが僕の人生だった。リリスがいなかったら、僕の人生は何もない。無だ。

…リリスがいないと、僕は生きていけない。

それなのに、死ぬことさえ出来ない。

だから僕は、狂っていったんです。