神殺しのクロノスタシスⅣ

それからというもの。

僕の放浪の日々が、いよいよスタートしました。

僕はあの後、魔導師陣営の司令部には帰りませんでした。

僕達が負けたのはあの戦線だけであって、他の地方で起きていた戦線では、まだ味方は戦っていました。

戦闘は終わっても、戦争は続いていたんです。

だから僕は、軍に所属する魔導師として、例え持ち場だった戦場で負けたとしても。生きている限り、別の戦場で戦わなければならなかった。

リリスを失ったとしても、僕が魔導師であることには変わりないのだから。

それが、軍人としての僕の義務だった。

でも、僕はその義務に従わなかった。

何故かって?

言うまでもないですよね。

どうでも良かったからです。

この戦争が、勝とうが負けようが、魔導師が全滅しようが、人類が絶滅しようがどうでも良かった。

僕の世界は、リリスだけだった。

そのリリスを失ったのに、僕にどうして、これ以上この世界に居続ける意味があっただろう。

何度も死のうとしました。生きてる理由なんて、もう何処にもなかったから。

でも、僕はもう死ねない。

どんなに残虐な自殺を試してみても、必ず生き返る。これはリリスの能力だった。

僕はリリスになったんだ。リリスは僕になったんだ。

だからそこにもう、リリスはいない。

二度と会うことは出来ない。

誰よりも僕の近くにいるのに、それなのに声も聞けない。姿を見ることも出来ない。

そして僕は、生きる理由もなくなったのに、死ぬことさえ許されなくなった。

死ねない。死ねないことが、こんなに辛いとは。

リリスは生まれてからずっと、こんな思いをしながら生きていたんだと、初めて知った。

そりゃ地獄ですよ。

人はどんな苦しみにでも耐えられる。それは終わりがあるから。

どんなに酷い、辛い出来事でも、終わりがあるなら耐えられる。

でも、終わりがなかったら?

その苦しみが、永遠に続くとしたら?

それは耐え難い生き地獄であり、この世で最も…僕の知る限り最も…凄惨な悲劇です。

死んで、リリスに会いに行くことも出来ないのか。

なんて地獄だ。

リリスがいないのに、僕に戦う意味なんてない。

だから僕は、生まれ育ったその世界を後にした。

あれ以来、一度も帰っていません。

今頃僕の生まれ故郷はどうなっているのか。知りたいとも思いませんが。

魔導師陣営と非魔導師陣営が、お互いを食い潰していたあの世界。

恐らく長くはなかったでしょう。今頃は、どちらかが滅び去った世界なのか。

それとも、万が一にでも講話が成り立って、お互いに共存しているのか…。

いずれにしても、あれほど夥しい血が流れた大地を、再び人間が踏み締めて生きていくなんて。

あまりにおぞましいことだと、僕は思いますけどね。

どうでも良いことです。

不死身の身体という、地獄を手に入れた僕には…どうでも良いことだった。

二度とリリスに会えないという…地獄に陥った僕には。