神殺しのクロノスタシスⅣ

…あの戦場に送られてから、どれくらい時が流れただろう?

僕があの場所にいた時間を、僕は覚えていないのだ。

記憶にない。

一ヶ月だったのか、半年だったのか、一年だったのか。

あるいは、本当は十日ほどしかたっていないのかもしれない。

時間の流れが分からなくなるほど、毎日、毎時間、やることは同じだった。

朝も昼も夜も戦場に突っ立って、わらわらと詰め寄せてくる敵を殺すだけ。

爆弾が炸裂する音に怯えるどころか、単なる日常のBGMに変わり。

工場の流れ作業のように、次々襲ってくる敵をひたすら殺す。

そこに感情はない。

本当に、工場で部品を捌いてるみたいだった。

おぞましいでしょう?あなたは特に、こういう話は聞きたくないでしょうね。

だけどあの場所だと、それが普通の感覚だったんです。

…いや、僕がおかしかったんですかね?

心を壊さなければ、正気でいられなかったのかもしれない。

戦争って、まともな神経で出来ることじゃないので。

ただただ、目の前にいるのが自分と同じ人間だということは考えず。

駒を蹴散らすように、ひたすら殺して回ってました。

今思えば、僕はあの頃から、人殺しに何の抵抗も覚えなくなっていたのかもしれませんね。

人を殺すことは悪だなんて価値観は、あの場所では何の意味もありませんでしたから。

毎日血にまみれ、泥にまみれ、汗にまみれ。

ひたすら殺し、殺し、殺し尽くす日々。

あのとき何を考えていたのか、何も考えてなかったのか…。心が麻痺してよく覚えてないんですが。

でも、あんな日々の中でも。

リリスと過ごした時間、リリスと交わした言葉はよく覚えているんです。

人を殺したことは覚えてないのに、好きな女の子と喋ったことは覚えてるなんて。

我ながら、気が狂ってるとしか思えませんね。







「…大丈夫?ナジュ君」

非魔導師陣営の定期便を、何とか蹴散らして。

猛攻を凌ぎ、敵が撤退した僅かな時間。

束の間の休息を与えられた僕に、リリスはいつも必ずこう聞いてきた。

大丈夫?って。

どう考えても、あなたの方が疲れてるでしょうに。

倒した敵の数が違う。

殺した人間の数が違う。

僕はリリスの周りをうろちょろしながら、小蝿を散らしていたに過ぎない。

気遣うべきはリリスの方だ。

「僕は大丈夫ですよ。それより、リリスは?」

だから、リリスの問いかけに毎回、僕はこう返していた。

お決まりの定型句みたいなものだった。

そして、僕が問いかけると、リリスは毎回必ず。

「私は大丈夫だよ」

そう返してきた。

一連の会話が、流れになっていた。

あの戦場で、僕達はこのやり取りを、飽きるほど繰り返してきたけど。

不思議なことに「毎回同じやり取りしてるな」とは気づかなかった。

それだけ、毎日逼迫した状況だった。