神殺しのクロノスタシスⅣ

こうして僕達は、戦場の最前線に送られることになった。

戦局は良くないと聞いていたから、それなりの覚悟はしていたけど。

それでも、僕が最前線で見たものは、地獄以外の何物でもなかった。

それはもう酷い戦場でした。

綺麗な戦場もなかなかないと思いますけど。

それにしたって、あれは酷かった。

特に僕が送られた前線は、兵を激しく消耗し、疲れ果て、徐々に後退を余儀なくされている戦場で。

僕はそこに送られ、前線を支え、一気に攻勢に持ち込むのが狙いだった。

冥界の女王であるリリスの力があれば、それくらい訳ないだろうと。

完全に、上の人の皮算用だった。

当時、召喚魔導師の数はごく少数で、仲間内でさえその力はあまり知られていなかった。

だから、勝手に戦力を過大に見立てられてたんでしょうね。

上の人は勿論、現場で戦っている魔導師達にとってもそうだった。

僕とリリスだけで、戦局を覆すことが出来ると固く信じていた。

と言うか、信じたかったんだと思う。

戦局は、あまりに惨状を極めていたから。

何でも良いから、誰でも良いから、縋れるものには縋りたかったんだろう。

それで縋られる方は、たまったものじゃない。

僕は前線に着くなり、すぐさま戦場のど真ん中に配属された。

追撃してくる非魔導師を、リリスの力で一網打尽にして黙らせ。

怪我をした味方を一度後退させて、戦線を立て直す役割だ。

超重要な役割ですよね。

そんな役割を、戦場に来たばかりの、しかも、まだ成人もしてない小僧の両肩に託すなんて。

全く、どうかしてますよあの戦場は。今になって振り返ってそう思う。

でもあのときは、そんなこと考えている余裕はなかった。

命令を受けているそのときも、各地で爆撃を受けていた。

魔導師陣営の陣地は、地震でも起きているかのようにぐらぐら揺れていた。

立っているのも覚束無いほどだった。

心の準備をする時間もなく、僕は前線に送り届けられた。

初めての本物の戦場に、さすがの僕も臆しましたよ。

これはマジでヤバいと思いましたよ。

あの頃の僕は、まだウブな少年でしたからね。

いや、今も心だけはウブな少年ですけど。

目の前に爆弾が飛んできて、それによって細切れにされた味方の肉片が飛んできたり。

爆薬をコートみたいに身体に巻き付けて、雄叫びをあげながら、阿修羅みたいな形相で突進してきたりするのを見たら。

そりゃあ、足も竦むってものでしょう。

あれを見て、最初から平然としていられる人がいたら、それはもう生粋のサイコパスですよ。

僕には無理だった。

でも、だからってビビっている暇もなかった。

急がなきゃ、味方全滅ですからね。

味方には誰一人知り合いはいなかったけど、それでも味方であることには変わりない。

一人でも多く、助けられるものなら助けたいですよ。

でも、足が竦んで動けなかった。

初めて見る戦場で、本能的に現実逃避しようとする脳みそに無理矢理、これは現実なのだと叩き込もうとしている間にも。

味方は一人また一人と吹っ飛んでいって、血まみれの肉の塊になっていく。

立ち尽くしている僕の代わりに、動いてくれたのはリリスだった。

「大丈夫だよ、ナジュ君…。私が守ってあげるからね」

あの戦場で何度も、呪文のように繰り返したリリスの言葉。

その言葉と共に、リリスは戦場に降り立った。