神殺しのクロノスタシスⅣ

そもそもリリスって、そんなに好戦的な子じゃないんですよ。元々は。

強い力を持ってはいたけど、その力を、他人を傷つける為に使うことは、ほとんどと言って良いほどなかった。

強過ぎるが故に、その力を無闇に振るいたくなかったんだと思います。

それなのに、リリスは戦うことを受け入れた。

しかも、相手は魔法も使えない、非魔導師の集団。

リリスが戦場に降臨したら、それこそ虐殺が起きる。

リリスにそんなことはさせたくなかった。

でも、他にどうすることも出来なかった。

僕に出来たのは、そう…。情けない言葉で、リリスを励ますことだけだった。








「…大丈夫?ナジュ君」

気遣わなければならないのは、僕の方なのに。

リリスを戦わせたくないと上官に直訴して、ぶん殴られた後…リリスは真っ先に、僕にそう声をかけた。

「…僕なんかどうでも良いですよ…」

殴られたから何だって言うんだ。これからリリスは酷い戦場で、死ねない身体で酷使されるのに。

リリスの方が、ずっと心配だ。

しかし。

「あんなこと言っちゃ駄目だよ。上の人に逆らったら駄目。ナジュ君が怒られて傷つけられるなんて、私耐えられない」

リリスが心配するのは、あくまで僕のことだった。

何を言ってるんだか。

「耐えられないのは、僕だって同じですよ…!リリスが苦しみながら戦わされるのを見て、耐えられないのは僕の方ですよ!」

八つ当たりである。

まぁ、このときは僕もガキだったということで。

「…」

リリスは、傷ついたような顔をして目を逸らした。

そこでようやく、自分が八つ当たりしていることに気づいた。

幼稚だ。

「…っ、ごめんなさい…。責める、つもりじゃ…」

イライラして、不満をぶつけ合ってる暇も余裕もない。

既に、最前線への転身命令は下っているのた。

すぐに、準備を始めなければならなかった。

だけど僕は…どうしても、リリスと言葉を交わさずにはいられなかった。

このまま、何も言わずに戦場に行くことは出来なかった。

「リリス…ごめんなさい。僕のせいで…こんな、戦争に巻き込んでしまって…」

リリスは戦いたくないはずなのに。戦うことなんか望んでないのに。

それなのに僕は、リリスを便利な道具のように扱い、戦場に連れて行こうとしている。

とてつもなく重い罪だった。

それなのに、リリスは首を横に振った。

「ううん…ナジュ君のせいじゃないよ。ナジュ君が始めた訳じゃないじゃない」

…それは、そうだけど。

「でも…僕と契約さえしなければ、こんなことには…」

「駄目だよ、ナジュ君。それ以上は駄目」

そう言って、リリスは僕を黙らせた。

「君と契約しなかったら、私は今頃、孤独のあまり…生きたまま死んでた。今こうして私が生きているのは…君と契約したから。だから、どんなことになっても、君と契約したことを後悔したりなんかしないよ」

…その言葉が。

この後、長い間…僕を支えることになる。

「大丈夫だよ、ナジュ君…。君は私が守ってあげるから。何も心配しないで。君を絶対、死なせたりはしないから」

リリスはそう言って笑った。

本当は嫌なはずなのに。戦場になんか行きたくないはずなのに。

リリスは僕を心配させない為に、笑ってみせたのだ。

なんともまぁ、情けない話だ。

僕はリリスを支え、守り、力になるどころか…。

リリスに支えられ、守られ、頼りっぱなしになってしまうのだから。

男としても、人としても…こんなに自分を情けなく思ったことはなかった。

こんなに、自分の無力を痛感したことはなかった。