「ナジュ。昨日二人に会ったとき、何か異変はなかったのか?」

こんなときこそ、ナジュの無駄に有能な読心魔法が役に立つ。

いくら平気な振りを装おうが、心を読まれていたんじゃ、二人も隠し切れまい。

「えー…。無駄に有能、とか言う人には教えられな、」

「お前もファラリスされたいのか?」

「…どう思います?天音さん。パワハラですよね、これ。上司によるパワハラですよ」

「え?そ、そうかな…」

下らんこと言ってないで、質問に答えろ。

いきなり話を振られて、天音が困ってるだろうが。

「昨日は、令月さんには会ってません。が、すぐりさんには会いましたよ」

そう、素直にそう言えば良い。

令月には会ってないのか。でもすぐりに会ってるなら…。

二人共、情報は共有してるだろうし…。

「会ったのは放課後の、園芸部の活動をしてるときでしたけど。すぐりさんはいつも通りでしたよ」

「そうか…」

「いつも通り、『花畑って、何処に作れば良いんだろう…』とか考えてました」

あいつ、いつも何考えてんの?

花畑って何だよ?

ともあれ、『アメノミコト』からの刺客と接触した…という訳ではなさそうだ。

「じゃあ、『アメノミコト』絡みではないのか…?」

「そもそも、本当に『アメノミコト』からの刺客なら、わざわざそんなものを残していきますか?」

と、イレースがメモと人形を指差した。

…確かに。

以前抜け出したときは、何も残さずに行ってたもんな。

だから、抜け出したことさえ気づくのが遅れた。

俺達を巻き込まず、自分達だけで事を収めることを考えているのなら。

わざわざこうして、抜け出した証拠を残していくような真似をするか?

あの、小賢しい元暗殺者組が?

…考えにくいな。

まさか、『アメノミコト』にそのような指示を受けた、とか?脱走した痕跡を残せ、って?

有り得ない。あの狡猾な暗殺者集団が、わざわざ尻尾を掴ませるような証拠を残すなんて…。

イレースとナジュが、これほど楽観的なのは、それが理由か…。

いや、でもあいつらって、本当何考えてるか分からないし。

たまに、とんでもなく突飛なことをするから、行動が読めな、

「…ん?」

学院長室の窓から、ガチッ、と鉄がぶつかるような音がして、俺は振り返った。

すると。

窓のさんに、鋭い鉤爪のようなものが引っ掛かっていた。

何だあれ、と思ったとき。

窓の向こうに、ひょいっ、と登ってくる…、

…黒装束に身を包んだ、令月の姿があった。

…何やってんの?あいつ。